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損害額の計算(R05.09.29東京地判)

損害額の計算って、なかなか苦手な人が多いですよね。
実際の事件においては、損害額については、原価や売上げを隠すために一部非開示になることが多いです。
なので、具体的な事例を見ることは少ないと思います。
ただ、その中でも、かなり細かく金額が出ている事件を紹介します。

事例としては、著作権侵害に関するものです。
ただ、著作権侵害でも、損害額の計算方法は、特許法等と同じなので、紹介したいと思います。

目次

製品の比較

まず、原告製品と、被告製品との対比です。

左が原告XのTシャツです。右が被告YのTシャツです。写真は判決文から引用しています。
共通するのは水着の女性が寝そべっているイラストがTシャツの中央に描かれています。
裁判所は、被告イラストは、原告イラストに依拠しているとして翻案権侵害、意に反して改変されていることから同一性保持権侵害を認めました。

損害額の計算

さて、損害額を計算していきます。被告Yは、Tシャツを500枚製作し468枚販売していました。そこで、まず被告Yの譲渡数量が468枚になります。

次に、単位数量当たりの利益の額を計算します。

証拠(甲7、8、32、34、39ないし44)及び弁論の全趣旨によれば、原告のTシャツ1着当たりの販売額及びTシャツの製造・輸送に係る変動経費は次のとおりであり、単位数量当たりの利益額は5178円(6380円-336円-330円-110円-11円-303円-11円-101円=5178円)となると認められる。
(ア) 販売額 6380円/1枚
(イ) Tシャツ本体の原価 336円/1着
(ウ) 印刷費用 330円/1着
(エ) 製品タグ縫付け 110円/1着
(オ) 輸送費 11円/1着
(カ) 賃料 14万1900円/468着
(303円/1着。円未満切り捨て。以下同じ。)
(キ) ポイントカード協賛金 5390円/468着(11円/1着)
(ク) クレジットカード費用 4万7300円/468着(101円/1着)

利益率は80%超ですので高いんですね・・・と思いつつ、先に進みます。
今度は実施相応数量です。販売能力が問題になります。

著作権法114条1項本文の「販売その他の行為を行う能力」とは、侵害された著作物を販売する能力のほか、その著作物を生産する能力など、販売行為に至る種々の能力を意味することから、生産委託等の方法により譲渡数量に対応する数量の製品を供給することが可能であったことも含むと解すべきである。

販売能力や、製造能力というのは、外注先も含むと解されています。

証拠(甲35、47ないし50)によれば、原告は、令和元年6月から令和2年5月までの1年間で、原告製品の製造委託先であったZに対し、原告製品を含む6300点以上の衣服の生産を発注していたこと(ただし、原告製品のみの生産発注数は明らかではない。)、原告が現在Tシャツを含む衣類の製造委託をしている会社は、発注から2ないし3週間程度で原告製品を販売している店舗に上記衣類の納品をしていることが認められる。これらの事実に照らすと、原告には被告製品の販売期間に対応する令和元年9月から令和2年7月16日までの間に、当時の製造委託先であったZに対し、譲渡数量である468着の原告製品の製造委託をし、納品させるだけの生産能力を有していたものと認められる。また、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和元年頃から令和2年頃までの間、主に横浜みなとみらい店、お台場店、柏高島屋店、池袋パルコ店の4店舗、一時的なポップアップストア2店舗及び原告のオンラインショッピングストアで原告製品を販売していたことが認められ、このような販売体制に照らせば、468着の原告製品を販売するのに十分な能力を有していたと認めることができる

販売能力については問題ありませんでした。
次に除外されるのが「販売することができないとする事情」です。

まず、需要者層が違うという主張について裁判所は認めてくれます。

証拠(甲16、乙28)によれば、原告製品は、主に都市部のショッピングセンターにおいて、5800円(定価)で販売されているのに対し、被告製品は、主に地方都市の大型ショッピングセンターにおいて、1990円(定価)で販売されていたこと、原告製品は値引きされることが一切なかったのに対して、被告製品は、売れ行きが悪い場合には値引きをされており、その結果被告製品の平均販売価格は1183円であったことが認められ、これらの事情を考慮すると、原告製品と被告製品の需要者層には一定の違いがあるといえ、この点は「販売することができない事情」として考慮されるべきである。

税込み6000円以上するTシャツを買う人と、2000円未満のTシャツを買う人は異なるという考え方です。
確かに、自分も高級Tシャツはなかなか買えません。

次に、Tシャツの売行きがそれ程よくないので、イラストは顧客吸引力がないというものです。ちょっと、著作者かわいそうな気もします。

原告が原告製品の販売数を立証する客観的証拠を紛失したため(弁論の全趣旨)、原告製品の販売数は明らかになっていないこと、証拠(乙17、28)によれば、令和元年8月1日から令和2年4月15日までの間における被告シリーズ全体の平均販売価格が1263円であったのに対し、被告製品は1191円であって、被告シリーズ全56種類の中で33番目と比較的低い平均販売価格であり、値引率の高い商品であったとうかがわれること、被告シリーズのTシャツの仕入数量に対する販売数量の割合は、全体の平均値が91.1%であるのに対し、被告製品の割合は93%であり、被告シリーズの中で37番目と高い割合ではなかったことが認められ、これらの事情に照らすと、原告イラスト2の翻案物である被告イラストを付した被告製品は、被告シリーズの他のTシャツに比べて、売れ行きが良かったとはいえないから、原告イラスト2に特別な顧客吸引力はなかったと認めるのが相当である。

更に、被告側の営業努力が評価されています。
イラストに顧客吸引力はなく、そもそもTシャツが売れたのは、被告が頑張っているからというものです。

他方で、証拠(乙18ないし28)によれば、被告は、有名な俳優やタレントを起用し、店頭配布用のフリーペーパー、店頭タペストリー、動画配信等により、被告ブランド5 の宣伝をしていたこと、平成27年以降、被告ブランドが終了した年の前年に至るまでに被告が被告ブランドの広告宣伝にかけた費用は毎年1億円を超えていること、被告ブランドの製品は、少なくとも平成28年頃には、多数のファッション誌に掲載されていたことが認められることから、被告の顧客獲得の努力や被告ブランドの顧客吸引力の高さが被告製品の売上に一定程度貢献したといえ、この点は「販売することができないとする事情」として重視されるべきである。

といろいろと参酌されまして・・・

以上の事情を考慮し、被告製品の譲渡数量の70%については原告が販売することができない事情があったものと認めるのが相当である。

70%減額!
結構大きいですね。

以上に基づいて算定すると、468着×5178円×0.3=72万6991円が被告による著作権侵害によって原告が受けた損害の額となる(著作権法114条1項)。

あとは、同一性保持権侵害が認められており、これは10万円が認められています。
最終的に弁護士費用8万円と併せて、90万ちょっとが損害額として認定されました。

このように、具体的な事例でみると、すこしイメージができるのではないかと思います。

商標権侵害について

さて、この事件においては、商標権侵害でも争われています。
原告が、イラストの商標について登録商標を有していたためです。
Tシャツの中央にイラストとして使われているので、商標的使用には該当しないとも考えられます。
しかし、この事件について裁判所は商標権侵害を認めています。
この辺が商標の事例は結論が一意ではないことから、受験生が混乱するところです。

5 争点5(商標的使用該当性)について
(1) 証拠(甲10、12の2、12の4、12の5、12の6、13の3、14の2、14の3)によれば、原告は、原告ブランドの店舗開店当初から、原告商標を、同店舗のポスター、看板、Tシャツ、パーカー、アクセサリー等に印刷して使用していたこと、令和元年頃には、横浜、東京、千葉、名古屋等に常設又は臨時店舗を開設し、同店舗及びオンラインショップで、原告商標が印刷された商品を販売していたことが認められる。
また、前提事実(4)イのとおり、原告は、他のアパレル会社等とコラボレーションをし、原告商標を改変したり、同イラストの下部又は右下部にコラボレーションをしたアパレル会社のブランド名を記載したりしたものをTシャツ等の胸元に印刷して、販売することがあった。
これらの事実に照らせば、原告商標は、これを付した製品の出所を示すものとして、一定の知名度を有していたと認められる
そして、被告は、前記4のとおり、原告商標と誤認混同のおそれがある被告標章を、前提事実(5)のとおり、被告製品に付して使用していたのであるから、被告標章の使用は、自他識別機能を果たす態様での使用であるといえ、商標的使用に該当するというべきである。
(2) これに対し、被告は、被告製品は被告標章が胸部の中央に大きく印刷されたものであるところ、需要者は、通常、Tシャツの首後ろ部に印刷された被告シリーズの名称や、被告製品販売時に付された紙製のタグにより被告製品の出所を認識するから、被告標章により出所を認識するものではなく、被告標章は自他商品識別機能を果たさない態様で使用されていたと主張する。
しかし、商標がTシャツの首後ろ部の表示やタグだけではなく、胸元に大きく付された商品も多く存在すると認められること(当裁判所に顕著な事実)に照らすと、需要者がTシャツの首後ろ部に印刷された名称や紙製のタグにより被告製品の出所を認識するとの事実を直ちに認めることはできないというべきであり、本件全証拠によっても、被告主張の事実を認めることはできない。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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