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「夢」事件(平成31年(ワ)第8117 東京地裁R03.06.28)

最近の知財判例から。

原告Xは「広告及び宣伝業,印刷物の企画及び製作販売,出版物の編集,製作,発行販売等を業とする株式会社」です。
被告Yは「酒類の製造及び販売,観光用土産品の販売,農水産物の加工販売,清涼飲料水,嗜好飲料及び食料品の販売等を業とする株式会社」です。

原告Xは「夢」(標準文字)、指定商品「日本酒」の登録商標を有しています。
被告Yは日本酒に「夢」と印刷されたラベルを日本酒の瓶に付して販売しています。

ということで、商標権自体は侵害しているというのは仕方ないと思われます。

ここで問題となったのは、商標権者が日本酒を販売している会社ではなく、単に印刷会社ということです。

原告Xは,業として,原告商標の指定商品である日本酒を生産し,証明し,譲渡したことはありません。
原告商標を用いた日本酒のラベル,外箱等の印刷,製作,企画提案等や原告商標の管理を行うために,原告商標の商標登録を受けているに過ぎません。

被告側は、4条1項7号の無効理由を主張するのですが、認められませんでした。

被告は,原告が,自ら指定商品である日本酒を生産する目的を有しておらず,自己が取得した登録商標を使用した者に対してライセンス料名下に金銭を請求して利益を得る目的で,原告商標権を取得したものであり,商標制度を悪用し,公正な商取引に反するものであるから,原告商標の商標登録には法4条1項7号の無効理由があると主張する。
そこで検討するに,前記ア(ア)ないし(エ)のとおり,原告は,全国の醸造会社とラベルの製作等に係る取引を行っており,原告商標の商標登録を受ける25年以上前に,原告商標と同じく「夢」という漢字1字からなる商標登録を受けて旧原告商標権を取得し,日本酒のラベル,外箱等の印刷,製作,企画提案等を行うとともに,旧原告商標権を侵害する標章を使用していた酒造会社との間で,同標章の使用を中止させるなどしたところ,引き続き「夢」という漢字1字からなる原告商標を用いた日本酒のラベル等の印刷,製作等を行うため,原告商標の商標登録を受けたものである。そして,前記ア(オ)のとおり,原告は,訴外Z社らに対して原告商標の通常使用権を許諾するとともに,その対価として,Z社らから原告商標を付する商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物を受注する旨の契約を締結しており,このような事業形態は,原告が原告商標の登録出願時においても同様であったと推認することができる。
そうすると,原告は,長年にわたり,日本酒を販売するのに不可欠なラベルや外箱等の印刷,製作,企画提案等を行っており,このような原告の業務は,日本酒の製造及び販売に密接な関係があるといえる。そして,原告が,原告商標の商標登録を受け,原告商標の通常使用権を許諾した酒造会社から,原告商標に係るラベル,外箱等の印刷を受注するとともに,原告商標権を侵害する標章を使用する者に対してその使用を中止させるなどの原告商標の管理を行うことは,上記許諾を受けた酒造会社の利益にも適うものであり,原告に原告商標の商標登録を認めることが不合理であるとはいえない。
そして,原告が,原告商標以外に,多岐にわたる指定商品又は指定役務について登録出願をし,登録された商標を収集して,それを用いて利益を得ているといったような事実を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,原告が,ライセンス料名下に金銭を請求して利益を得る目的で原告商標権を取得したものであるとも,Z社らと通常使用権設定契約を締結したり,被告に損害賠償等を請求したりすることにより,商標制度を悪用し,公正な商取引に反する行為に及ぶものであるとも認められないというべきである。そうすると,原告による原告商標の商標登録が,著しく社会的妥当性を欠き,公序良俗に反するとまではいえず,他にこれを肯定する事情を認めるに足りる証拠はない。

一般的に考えると、日本酒を製造しない会社が出願をするのですから、使用する意思がないと感じるかも知れません。
しかし、公序良俗に反するとまではいえないのではないか?というのが裁判所の判断のようです。

更に、権利濫用の主張についても、裁判所は否定しています。

被告は,原告は原告商標を第三者に使用させてそのラベル等の印刷を受注するとともに,第三者をして旧原告商標権に係る商標を誤用させ,商標権侵害に基づく損害賠償名下に金銭を支払わせ,利益を得るということを行っているところ,このような行為は,法1条に反し,社会の正常な経済行為を阻害するものとして,およそ許されないものであるから,本件請求は権利の濫用に当たると主張する。
しかし,前記2(1)イ(ア)のとおり,原告は,日本酒の製造及び販売に密接な関係がある業務を行っており,原告商標の通常使用権を許諾し,原告商標に係るラベル,外箱等の印刷を受注するとともに,通常使用権者のために原告商標の管理を行うことが不合理であるとはいえず,原告が,原告商標以外に,多岐にわたる指定商品又は指定役務について商標登録出願をし,登録された商標を収集して,それを用いて利益を得ているといったような事情は認められない。
以上を前提に検討すれば,原告がZ社らに原告商標の使用許諾をすることでラベル等の印刷を受注していることについて,原告商標権を不当に行使するものということはできず,原告が酒造会社4社との間で和解契約を締結し,又は裁判上の和解をしたことが,直ちに,第三者をして商標を誤用させ,損害賠償名下に金銭を支払わせることを目的とするものであったと認定することはできない。
そうすると,原告の行為が,法1条に反し,社会の正常な経済行為を阻害するものであるということはできず,本件全証拠によっても,原告の被告に対する本件請求が権利の濫用に該当することを根拠付ける事情は認められない。

この辺の教科書と違った結論になりそうな感覚が商標法が「難しい」と受験生が感じるところです。

なお、損賠賠償については、38条2項の推定規定は認められず、38条3項が認められています。

原告は,原告商標を自ら使用していないものの,Z社らに対して原告商標の通常使用権を許諾し,Z社らが原告商標を継続して使用しているから,法38条2項に基づく請求が認められると主張する。
この点,前記2(1)ア(ア)のとおり,原告は,原告商標を自ら使用したことはないところ,商標権者が当該商標を使用していることは,法38条2項を適用するための要件とはいえず,商標権者において,侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,同項の適用が認められると解すべきである。
しかし,前記2(1)ア(オ)のとおり,原告は,日本酒を生産等するZ社らに対して原告商標の通常使用権を許諾したにすぎず,自らは日本酒の生産等を行っていないから,被告が被告各標章を付した被告商品を販売することがなかったならば,原告が日本酒の販売等によって利益を得たであろうとは直ちには認められない。また,本件全証拠によっても,被告による被告商品の販売が,原告が上記許諾の対価として受ける原告商標を付する商品の容器に貼付するラベルその他の関連印刷物の注文に影響を与えるといった事情は認められず,他に,被告による商標権侵害行為がなければ,原告が利益を得たであろうという事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告に法38条2項に基づく請求は認められない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/475/090475_hanrei.pdf

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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