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MIRAI事件(知財高判 R04.11.21)

商標「MIRAI」に関して4条1項15号が争われた事案。

出願商標(商願2015-92058)は、「MIRAI」(指定商品12類自動車等)、出願日が平成27年9月24日です。
この商標は、出願日が平成27年7月18日に出願(商願2015-68401)された「MIRAI」を分割出願したものです。
そして、この出願は複数分割出願されているものであり、一番最初の親出願は平成26年9月8日が出願日となります。

それに対して引例となるのはトヨタ自動車の水素自動車「MIRAI」です。
平成26年12月15日が発売時期になり、その時点では取引者、需要者はもとより、一般世人の間にも広く知られていたと判断されています。

ここで問題となるのは「分割出願」が遡及効を有するかということが論点となりました。
当該出願人は、多くの出願について、却下処分となっています。
そうすると、原出願において、子出願と重なる指定商品を削除していない訳です。
この点を特許庁は「分割要件違反」として、遡及効を認めていません。

それに対して、出願人は、「商標法10条の分割要件には規定がない」として、出願日が遡及すると主張しているものです。

裁判所は、本件出願について、遡及効を認めませんでした(したがって、4条1項15号の拒絶審決を維持)

1 出願日の遡及について
(1) 商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。
商標法4条1項15号に該当する商標であっても、商標登録出願の時にこれに該当しなければ、同号は適用されないので(同条3項)、本件において商標登録出願がいつであるかが問題となる。
この点につき、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商標法施行規則22条2項は違憲違法であり、その結果、本願は商標法10条1項による商標登録出願の要件を満たすものとなり、同条2項が規定する出願日遡及の効果が生ずるから、本件における出願日は、原々商標登録出願がされた平成26年9月8日になる旨主張するので、以下検討する。
商標法10条1項は、「商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合であって、かつ、当該商標登録出願について第76条第2項の規定により納付すべき手数料を納付している場合に限り、2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と定めている。
このように、分割出願においては、もとの商標登録出願の指定商品等を2以上に分けることが当然の前提となっているから、もとの商標登録出願と分割出願で指定商品等が重複するのを避けるため、もとの商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する必要がある
この点につき、平成17年最高裁判決は、「商標法10条は、「商標登録出願の分割」について、新たな商標登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定しているが、新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと、商標法施行規則22条4項は、商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合においては、新たな商標登録出願と同時に、もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定していることからすると、もとの商標登録出願については、その願書を補正することによって、新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解するのが相当である。」旨説示して、新たな商標登録出願がされたことにより、当然にもとの商標登録出願が補正されるものとはいえないことを明らかにしている。そうすると、上記のように、もとの商標登録出願と分割出願で指定商品等が重複するのを避けるためには、もとの商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する補正が必要となることは、商標法10条1項自体が想定しているものということができる
そして、商標法施行規則22条2項は、特許法施行規則30条を準用し、商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合において、もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは、その補正は、新たな商標登録出願と同時にしなければならないとしているところ、これは、もとの商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する必要が生ずるという、同項が想定する事態に対処するものであるというべきであり、上記最高裁判決も、このような意味で、商標法施行規則22条4項(現2項)が商標法10条1項に適合することを明らかにしていると理解される。
本件においては、そもそも、本願の商標登録出願時はもとより現在に至るまで、原商標登録出願について、本願に係る指定商品を削除する補正がされたとは認められず、商標法施行規則22条2項の要件を欠くばかりか、もとの商標登録出願の指定商品等を2以上に分けるという前記 の分割の前提をも欠くものである。そうすると、本願の商標登録出願は、商標法10条1項の規定による商標登録出願の要件を満たすものではないから、分割出願として不適法であり、同条2項が規定する出願日遡及の効果は生じないものであり、これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく、出願時は平成27年9月24日となる。

結果的に、親出願が登録にならなければ重複になるものではないため、実害はないと考えます。
しかし、裁判所は、分割出願するときには、分割出願に含まれている指定商品等は、原出願から削除する必要があるとしています。

今回は出願において、通常では考えられないほど分割出願されているという状況の案件です。
少し特殊な事情はありますが、少し気にしないといけない判例だと思います。

判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/559/091559_hanrei.pdf

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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