Lゼミが今年も始まりました

令和5(行ケ)10007(R05.08.10 知財高判)

たまには裁判例の話とかしておきます。
意匠法の新規性の喪失が問題となった事例です。

原告が被告に意匠が記載された写真、パンフレット等をメールで送った行為が、新規性喪失に該当するか?ということが争われています。
あっさり考えれば、送信相手に守秘義務がなければ新規性喪失してしまう訳ですが、現実的には争いになることはあります。

ここで、どの程度までが守秘義務があるのか?という点について、裁判所は以下のように示しています。

ある意匠が他の者に知られた場合であっても、当該者が当該意匠について秘密保持義務を負うと認められるときは、当該意匠は、いまだ意匠法3条1項1号にいう「公然知られた意匠」に該当するものではない。もっとも、当該者が当該意匠について秘密保持義務を負うといえるためには、必ずしも秘密保持義務の発生の根拠となる契約が存在することまでは必要とされず当該者とその相手方との関係、当該者において知るに至った事項の性質及び内容等に照らし、当該者が当該意匠について秘密にすることを社会通念上求められる状況にあり、当該者がそのことを認識することができれば、当該者は、当該意匠について秘密保持義務を負うものと解するのが相当である。

厳密に、秘密保持契約(NDA)を結んでおかなくてもいい場合があるよということは示しています。
その上で今回は、

前記認定のとおりの本件パンフレットの体裁によると、本件パンフレットは、宣伝、広告等のための一般的なパンフレットであるといえ、加えて、本件写真が本件パンフレットと同時にB及びCに送付されたものであること、本件パンフレット等には、引用意匠が開発中のものであるなどの記載や本件パンフレット等が秘密情報を含むものであることを示す「部外秘」などの記載がないこと、本件メールにも、引用意匠や本件パンフレット等を秘密扱いにするよう求めるなどする記載がないこと、Dは、原告らの各代表者から、本件送付に先立つ平成29年2月1日、引用意匠を含む本件発明について、これを同月19日に行われる予定の本件説明会において公開するよう依頼されていたこと、本件パンフレットは、Bが同月13日にした引用意匠の公開を前提とする依頼(「Dは、同月19日の本件説明会においてプレゼンテーションをする予定であり、当該プレゼンテーションにおいてちゅら瓦(引用意匠を含むもの)について説明したいので、石垣市役所に対してちゅら瓦のサンプルを送付してほしい」との趣旨の依頼)に応じたAにおいて、ちゅら瓦のサンプルと共に石垣市役所に送付したパンフレットと同じパンフレットであること、原告らにおいて、被告隈研吾事務所に対し、本件発明に係る本件原出願(特許出願)がされた同年6月16日に先立って、引用意匠を含む発明、引用意匠等について特許出願、意匠登録出願等をする予定がある旨を伝えたことがなかったこと、本件送付から本件発表までの僅かな期間においてのみ引用意匠を秘密にすべきとする事情はうかがわれないことなどを併せ考慮すると、本件パンフレット等を受領した被告隈研吾事務所において、本件発表がされた同年2月19日の時点においてはもちろんのこと、本件送付がされた同月16日の時点においても、本件パンフレット等に掲載された引用意匠を秘密にすることが求められる状況にあると認識し得たものと認めることはできない。

と、色々な事情を考えれば、秘密状態ではないと判断されています。
原告としても、商慣行上想定できたのではないか?という点や、相手に秘密ですと言える立場ではなかったと主張していますが、全く言えないということはないだろうという判断がされています。

本当の経緯は分かりませんが、もともと新喪例は利用して出願しているものです。
この新喪例の手続にメールの事実が漏れてしまっていたことから、争いになっています。

新喪例は全部カバーすることが難しく、手続をしても漏れがでることで拒絶となったり、無効となったりするリスクがあります。

この点に鑑みて令和6年のおいて意匠法の新喪例の手続については改正がされる予定です。

裁判所PDF

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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