弁理士受験生と生成AI

毎日、ほぼ何らかの形で生成AIとは向き合っています。

ということで、弁理士受験生向けに、生成AIの使い方を紹介します。

1.生成AIで大切なこと

生成AIを使うので、注意すべきことは2点です。
1つは「プロンプトを適切に入れること」です。

プロンプトは、AIに投げる文章です。
概ね「AIが上手く使えない」のは、このAIに投げる文章が上手くいっていないためです。
現在のAIは、「ほぼ丸投げ」の質問に対して、適切な処理することは厳しいです。
そのため、AIに投げる文章を適切にすることが大切です。

次に、ハルシネーションに気をつけることです。

ハルシネーションはWikipediaによれば、

ハルシネーション (英語: hallucination)、または幻覚(げんかく)、でたらめ、作話(さくわ、英:confabulation)、ディルージョン(妄想、英:delusion)とは、人工知能によって生成された、虚偽または誤解を招く情報を事実かのように提示する応答のことである

とされています。
すなわち、AIがウソを回答することです。

例えば、今年の弁理士試験の特許法第1問目を解かせると、AIは「5」が正解と出してきます。

5 特許原簿に、通常実施権及び仮通常実施権に関する事項が登録される場合がある。

5 正しい
特許法において、通常実施権(特許法第98条第1項第6号)や仮通常実施権(特許法第99条)に関する事項は特許原簿に登録される場合があります。したがって、正しい記述です。

明らかに間違えているのですが、結構AIは自信を持って回答してきます。
このAIの誤りの解答は、解っていることであれば、「誤りである」と判断できます。
しかし、正しいかどうか解らないと、それ自体の判断ができません。

したがって、少なくとも弁理士試験について、解らないことを生成AIに質問をするのは、2025年7月の時点では、お薦めできません。

お薦めの使い方1

さて、それでは、受験生がどのように生成AIを使うのが良いかを紹介します。
まず、良さそうな使い方は、

苦手な条文を、問題形式で出題してもらうこと

です。これにより、単に条文を読むより、多面的に知識を確認することができます。

例えば、審判の参加(148条)が苦手であったとします。
この場合、以下のようなプロンプトをAIに投げます。

以下の条文を元に、弁理士試験のチェック問題を作成して下さい。条文を根拠にした問題だけを作成して下さい。
(参加)
第百四十八条 第百三十二条第一項の規定により審判を請求することができる者は、審理の終結に至るまでは、請求人としてその審判に参加することができる。
2 前項の規定による参加人は、被参加人がその審判の請求を取り下げた後においても、審判手続を続行することができる。
3 審判の結果について利害関係を有する者は、審理の終結に至るまでは、当事者の一方を補助するためその審判に参加することができる。
4 前項の規定による参加人は、一切の審判手続をすることができる。
5 第一項又は第三項の規定による参加人について審判手続の中断又は中止の原因があるときは、その中断又は中止は、被参加人についても、その効力を生ずる。

出力された回答は以下の通りです。

特許法第148条 参加 チェック問題
問題1【基本問題】
第132条第1項の規定により審判を請求することができる者の参加について、正しいものはどれか。
1.審理の開始から30日以内に限り、請求人として参加することができる
2.審理の終結に至るまでは、請求人としてその審判に参加することができる
3.審決確定まで、請求人としてその審判に参加することができる
4.審判請求期間内に限り、請求人としてその審判に参加することができる
正解:2

問題2【請求人参加問題】
第148条第1項の規定による参加人(請求人参加)について、正しいものはどれか。
1.被参加人が審判の請求を取り下げた場合、参加人も審判手続を続行することはできない
2.被参加人が審判の請求を取り下げた後においても、審判手続を続行することができる
3.被参加人が審判の請求を取り下げた場合、参加人は新たに審判を請求し直さなければならない
4.被参加人が審判の請求を取り下げた場合、審判手続は当然に終了する
正解:2
(中略)

問題5【中断・中止問題】
参加人について審判手続の中断又は中止の原因がある場合について、正しいものはどれか。
1.参加人についてのみ中断又は中止の効力が生ずる
2.被参加人についても、その効力を生ずる
3.裁判所の判断により、被参加人への効力を決定する
4.被参加人が同意した場合に限り、その効力を生ずる
正解:2

問題6【参加時期問題】
審判への参加が可能な時期として、正しいものはどれか。
1.審判請求から30日以内
2.審理の開始まで
3.審理の終結に至るまで
4.審決の確定まで
正解:3
(中略)

問題10【複合問題】
以下の事例について、適切な判断はどれか。
事例:
特許無効審判において、補助参加人Fが病気により審判手続を行うことができなくなり、審判手続の中止原因が生じた。
1.Fについてのみ審判手続が中止される
2.被補助人についても審判手続の中止の効力が生ずる
3.被補助人が同意した場合に限り、審判手続が中止される
4.審判手続の中止は認められない
正解:2
第148条第5項により、参加人について中断又は中止の原因があるときは、被参加人についてもその効力が生ずる

解答のポイント
参加の種類
請求人参加(第1項):第132条第1項の審判請求権者
補助参加(第3項):審判結果について利害関係を有する者
重要な特徴
参加時期:審理の終結に至るまで
請求人参加の効果:被参加人の取下げ後も手続続行可能
補助参加人の権限:一切の審判手続が可能
中断・中止の効力:参加人の事由が被参加人にも及ぶ
実務上の注意点
利害関係の判断(実施権者、譲受人等)
参加申出の時期的制限
参加人と被参加人の関係

ここで、プロンプトを作るポイントは、以下の2つです

1.プロンプトの中に条文自体をしっかり入れること
2.条文を根拠にすることを明示すること

です。
特に条文までしっかり貼り付けることが重要です。
これにより、誤った出力を減らすことが可能となります。

お薦めの使い方2

このように、プロンプトによっては、色々な問題を出力させることが可能です。
例えば、以下のようなプロンプトを投げることで、口述試験の事例問題を作ることが可能です。

以下の商標法3条を使って弁理士試験の口述試験の応答事例を作成して下さい。条文から導き出しつつ、口述試験の会話調となるように作成して下さい。
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

商標法第3条 口述試験応答事例
【事例1】普通名称に関する質疑
試験官: 商標「りんご」を果実について商標登録出願した場合、商標法第3条との関係ではどのような問題がありますか。
受験者: 商標法第3条第1項第1号に該当し、商標登録を受けることができません。
試験官: なぜ第1号に該当するのですか。
受験者: 「りんご」は果実という商品の普通名称であり、これを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標だからです。普通名称は、特定の商品を表す一般的な名称として広く使用されており、特定の事業者が独占することは適切ではないためです。
試験官: では、「りんご」を洋服について出願した場合はどうでしょうか。
受験者: その場合は第1号には該当しません。「りんご」は洋服の普通名称ではないからです。ただし、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できない場合は、第6号に該当する可能性があります。

【事例7】使用による識別力の獲得(第2項)
試験官: 商標法第3条第2項について説明してください。
受験者: 第1項第3号から第5号に該当する商標であっても、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができる旨を定めた規定です。
試験官: なぜ第1号と第2号は第2項の対象外なのですか。
受験者: 第1号の普通名称と第2号の慣用商標は、使用によっても識別力を獲得することが困難又は不適切であるためです。普通名称は常に一般的な名称として使用される必要があり、慣用商標は既に識別力を失っているからです。
試験官: 使用による識別力の獲得はどのように立証するのですか。
受験者: 出願人の使用実績、売上高、広告宣伝費、市場占有率、需要者へのアンケート調査結果などの客観的資料により、需要者が特定の出所を認識するに至ったことを立証します。全国的な周知性が必要とされる場合が多いです。

【事例8】総合的質疑
試験官: 商標「手作り」をパンについて出願した場合、どのような検討が必要ですか。
受験者: まず、商標法第3条第1項第3号に該当するかを検討します。「手作り」はパンの製造方法を表示するものとして、第3号に該当する可能性が高いです。
試験官: その場合、商標登録の可能性はありませんか。
受験者: 第3号に該当する場合でも、第2項の適用により商標登録を受けられる可能性があります。出願人が「手作り」の商標を長期間独占的に使用し、需要者がその商標を見れば出願人の商品であると認識するまでになっていれば、使用による識別力の獲得が認められる可能性があります。
試験官: 立証のポイントは何ですか。
受験者: 使用期間、使用地域、使用量、広告宣伝の状況、市場での地位、需要者の認識などを総合的に立証する必要があります。特に、同種の商品について他の事業者も「手作り」を使用している中で、出願人の商標として需要者に認識されているかが重要な判断要素となります。

さて、今回はAIが問題を「作りすぎ」ていると思います。
例えば、事例8の場合は、この問題が正しいかどうか受験生に判断が難しいからです。

少し怪しいので、例えば、AIに以下のように指摘をします。

エビデンスがない問題は作成しないで下さい。

ご指摘をありがとうございます。確かに、先ほど作成した口述試験の応答事例には、条文に明確な根拠がない内容が含まれていました。
例えば:
「正宗」が慣用商標であるという具体例
使用による識別力獲得の立証方法の詳細
「全国的な周知性が必要」という要件
これらは実務上の知識や判例に基づくものであり、商標法第3条の条文からは直接導き出せない内容でした。
弁理士試験の問題作成においては、条文に明確に規定されている内容のみを基にし、推測や実務慣行に依存した内容は避けるべきですね。
もし商標法第3条の口述試験問題を再作成する場合は、条文の文言そのものから導き出せる内容に限定し、「各号に該当する要件」「第2項の適用範囲(第3号から第5号のみ)」「普通に用いられる方法で表示する標章」といった条文上明確な要素のみを扱うようにいたします。

と回答があり、その後は逸脱した問題を作成しないようにしてもらうことが可能です。

生成AIは、かなり便利ですが、使い方(特にプロンプトの入れ方が)がまだ難しい状況です。

なお、上記事例は、文章生成に強い生成AI(https://claude.ai/)を使用しています。

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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