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冒認出願者と先願の地位

質問を頂いたので回答します。

ゆうしゃ

冒認出願であっても先願の地位はあると考えていて良いのでしょうか?
39条のレア問R04-05-ハではそうなっていますが、
29条の2のこれポン4でH20-15-2では冒認出願は拒絶され
先願の地位はなしとなっていました。
冒認はそれが審査段階で分かるかどうかは、どのように読めば良いですか?

ときどき頂戴する質問です。
「冒認出願だから先願の地位がある/ない」という質問をもらうのですが、
そもそもこのように考える理由があるのか?ということが大切です。

繰り返しになりますが、ここでもポイントは「冒認出願だから」という部分です。
例えば、進歩性違反や、他のサポート要件違反との拒絶理由(無効理由)と冒認出願とを分けている条文があるのか?というと、それはありません。

特許出願の場合、出願した時点で先願の地位が発生します。
そして、特許出願が登録にならなかった場合(例えば、拒絶査定となった場合)に先願の地位が消滅します(特39条5項)。ここに、冒認出願だからという理由はありません。

また、登録査定になったのもは、今度は先願の地位は消えません
(例外的に訂正で消すことはできますが、今回はここでは無視します)。
これは、進歩性違反であっても、冒認出願であっても同じです。

[H20-15-2]甲は、自らした発明イについて学会で発表した後、発明イについて発明の新規性の喪失の例外(特許法第30条)の規定の適用を受けた特許出願Aをした。乙は、学会での甲の発表により発明イを知って、特許を受ける権利を甲から承継せずに、甲を発明者としてAの出願の日前にイについて特許出願Bをした。その後、A及びBは、いずれも出願公開がされた。この場合、出願Bは、出願Aに対し同法第29条の2に規定するいわゆる拡大された範囲の先願の地位も、同法第39条に規定するいわゆる先願の地位も有しない。

当該問題ですが、乙の特許出願Bを行っています。
冒認出願ではありますが、そもそも本問は学会発表行為があるにも関わらず乙は出願Bをしています。
したがって、29条1項違反により拒絶査定になるものです。冒認出願が理由ではありません。
仮に、冒認出願を理由として拒絶査定となったとしても、拒絶査定となっていますので先願の地位はありません。

[R04-特05-ハ]甲が発明イをしたところ、乙は、自ら発明イをしておらず、かつ、発明イについて特許を受ける権利も承継していないが、真に特許を受ける権利を有する甲に無断で発明イについて特許出願Aをした。特許出願Aの日後、甲は、発明イについて特許出願Bをした。この場合、特許出願Aは、特許出願Bに対して特許法第39条の先願の地位を有することはない。

この問題は少し難しいです。
まず、乙は勝手に特許出願Aをしています。
しかし、上述したように、まずは出願をしたことによって先願の地位は発生します。
次に、甲がその後に特許出願Bをしています。
ここで、時間的な先後願だけをいうと、特許出願Aが先に出願をしていることから、「先願の地位」は特許出願Aが有することになります。

ここで、実際の流れを少し考えてみます。

特許出願Bが審査請求をすると、特許出願Aを理由に特29条の2又は特29条1項の拒絶理由がきます。
(特許庁は特39条より特29条の2を優先適用します)
そうすると、甲はそのとき初めて「冒認出願がある」と気がつきます。
そこで、意見書にて、その発明は自分がした発明であることを主張します。
また、乙に対して文句を言うでしょう。
乙が「ごめんなさい」と認めればいいのですが、乙も認めないかもしれません。
そうすると、甲は裁判所に真の発明者であることを確認するための確認訴訟を提起することになります。
それで、認められば、結果として無事に乙の出願を潰すことができます。

特許出願Aの発明者は甲と認められれば、29条の2の適用はありません(発明者同一)。
また、特許出願Aは最終的に拒絶査定になりますので、39条の先願の地位も消滅します。
そして、仮に公開公報が発行されていたとしても、意に反する公知として処理できます。

さて、甲は、このような手続をすることで、初めて「先願の地位がない」といえます。
仮に、甲が面倒くさかったり、手続を知らなければ、乙の出願は潰れません。
したがって、「先願の地位を有することはない」というのは言い過ぎという問題になります。
これが仮に「○」だとすると、甲は当然に何もしなくてもよいというになります。
出願人に「甲さん、真の発明者だから、乙の出願は拒絶になります!」なんて気軽にいうと後で大変です。
そこで、出願人には、最悪訴訟を含めた費用が必要になることがあることを説明する必要があります。
なんか甲さんかわいそうですけどね。

ちなみに「冒認はそれが審査段階で分かるかどうかは、どのように読めば良いですか?」とありますが、それは進歩性も同じです。
問題としては、出願段階では審査官は全ての拒絶理由を通知できるという前提です。
しかし、そうであれば、29条2項の無効理由は生じません。
場面毎に問題を切り分けて考える必要が出てきます。

たまたまご指摘いただいた過去問を使って説明しましたが、受験生が考え過ぎているだけで、そこまで想定しなくても大丈夫なように問題は構成されていることが殆どです。

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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