Lゼミが今年も始まりました

質問(R03-特16-イ)

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質問の回答

質問があったのでお答えします。
R03-特16-イについて、いきなり拒絶審決にすることができるのか?というご質問でした。
とりあえず、問題を見られる環境ではなかったので、原則通りの考え方をお伝えしました。

それは、拒絶理由の通知は、どこかで1回されているものについては、拒絶査定(拒絶審決)することができます。
途中で解消とか、そういうものではなく、とりあえず既に一回されているのであれば、法的には拒絶査定(審決)することに問題がなということです(実務上通知するかどうかはまた別の話です)

ただ、疑問点は解消されなかったようですので、質問を精査することにしました。

審査において、拒絶理由通知がされたある拒絶理由(A)が解消されないまま別の拒絶理由(B)で(拒絶理由通知がされてから)拒絶すべき旨の査定がされることはありますか?基本はないと思うのですが、全くないのでしょうか?
つまり、審査官が拒絶理由通知をした拒絶理由Aについては解消していると考え、さらにAとは別の拒絶理由(B)を発見し、Bの拒絶理由通知をしてから、拒絶すべき旨の査定をした。ということが考えられるかと思ってます。
ただ、その後、審判官は拒絶理由Aが解消していないと考え、拒絶理由Aで拒絶理由通知をせずに拒絶審決できますよね?
質問の問題では、審査段階で拒絶理由A(問題文では明確性)の拒絶理由通知がされてないとは明言されておらず、拒絶すべき旨の査定がなされた理由は拒絶理由B(進歩性)のみだったとだけあります。この段階で、拒絶理由Aが通知されてなかったとは言い切れませんよね?
問題の本筋は、その後拒絶査定不服審判において、審判官が明確性の拒絶理由を発見した場合、「請求人に明確性の要件に関する拒絶理由の通知をすることなく」拒絶審決ができるか場合があるか、というところで、私は審査段階で明確性の拒絶理由通知をしなかったと明言がなかったのと、「場合がある」となっていたので、ある→○と思ったのですが、答えは×でした。解説は明確性の拒絶理由通知をしなければ、拒絶審決はできないということで、納得ができてないのです。

ということで、問題を見られる状況になったので、問題をみることにしました。
(原則通りで解消する疑問かと思っていたので申し訳ないです)

[R03-特16-イ]ある特許出願について、特許法第29条第2項(いわゆる進歩性)の規定のみにより拒絶をすべき旨の査定がなされた。その後、当該特許出願について補正されることなく拒絶査定不服審判が請求された場合において、審判官は、特許法第36条第6項第2号(いわゆる明確性)の要件を満たさないことにより拒絶をすべきものと判断した。この場合、請求人に明確性の要件に関する拒絶の理由が通知されることなく、審判請求は成り立たない旨の審決がなされる場合がある。

本問の場合は、一文目で「ある特許出願について、特許法第29条第2項(いわゆる進歩性)の規定のみにより拒絶をすべき旨の査定がなされた」と書いてありますので、それ以外の拒絶理由は通知されていないと読むのが普通です。
したがって、明確性違反については、審判段階で初めて通知すると考えれば、新しい拒絶理由が発生していることから、いきなり拒絶審決になることはありません。
この理解でよろしいかと思います。

考察(明確性違反について)

以下、すこし深い考察をします。通常はここまで考えなくてもOKです。

今回審判段階で通知されているのは「明確性違反」です。
この明確性違反は、典型的な例としては「誤記」などがあります。

「請求項2 更に認証部を備えた請求項2に記載の装置」

と書いてあると「請求項2に請求項2が従属?」となりますので、明確性違反が通知されます。

さて、審査段階で仮に最初の拒絶理由通知において明確性違反の拒絶理由を通知していたとします。
そうだとしても、問題文からは拒絶査定では「進歩性のみ」の拒絶査定が通知されています。
ということは、審査段階における明確性違反は解消しているわけです。

その上で、審判段階で「新たな明確性違反」が見つかったとします。

「請求項3 前記認証部は、ユーザの試問を認証する請求項2に記載の装置」

「ユーザの試問」はおかしいですね。「ユーザの指紋」の誤記ですので、やはり36条6項2号違反となります。
したがって、明確性違反の拒絶理由が通知されます(親切に拒絶理由通知に「指紋の誤記ではないか?」と書かれることが多いです。だったら、職権でこそっと

さて、同じ明確性違反の拒絶理由なのですが、指摘箇所が違っています。
したがって、この場合、新たな拒絶理由ですので、いきなり拒絶査定や、拒絶審決になることはありません。

これが進歩性違反になると、すこし事情が異なります。

例えば、審査段階で文献1と文献2とに基づいて進歩性違反を指摘されたとします。
このとき、審査官は、
「文献1の第1実施形態と、文献2の第2実施形態とを組み合わせると進歩性がない」
と指摘していました。
出願人が補正したところ、審査官は拒絶理由が解消したと思っていました。
ところが、後に審判官が再度文献をみたところ、補正後の発明が文献2の第4実施形態に開示があったという場合です。この場合、進歩性違反という理由も同じ、また、文献1、文献2という証拠も変わっていません。したがって、そのまま拒絶審決にしても、違法には一応なりません。

ただ、出願人には不利益ですので、実務上はそのまま拒絶審決にはならないと思います。
もう一度拒絶理由は通知されると思います。

以前自分がやった案件で、審査官に事前に補正案を送付し
「進歩性を解消しています」
と回答を頂いた案件がありました。
そのまま送付した補正案で手続をしたところ、
「申し訳ありません。文献読んでみたら、違う所に記載がありました」
と電話かかってきました。

補正案で拒絶理由は解消したと審査官も判断したため、そのまま拒絶査定にするのはと思って頂けたのでしょう。
ということで「前回は解消したと言ったが、もう一度拒絶理由を通知させてもらう」とのことでした。

という感じで出願人にはそんなに不利にならないよう運用はされていると思います。
ただし、原則はどうなのか?は大切なことなので、あまり深く考えずに、原則で考えるとよろしいかと思います。

蛇足の考察

更に蛇足ですが・・・

明確性違反はかなり特殊です。

例えば、
・最後の拒絶理由通知において明確性違反を指摘されていたが、例えば補正漏れにより補正をしなかった
・限定的減縮の補正をしたところ、誤記があって明確性違反によって独立特許要件を満たしていない
という場合です。
これらの場合も、条文では(当然試験問題の場合も)、「拒絶査定」となります。
しかし、審査実務的には、この場合は「最後の拒絶理由通知」となります。
これは審査基準において「最後の拒絶理由を通知できる場合」に、記載があります。

d.通知した拒絶理由は解消されていないものの、拒絶理由を解消するために出願人がとり得る対応を審査官が示せる場合であって、その対応をとることについて出願人との間で合意が形成できる見込みがあると判断し、出願人と意思疎通を図った結果、合意が形成されたときに通知する拒絶理由通知は、「最後の拒絶理由通知」とすることができる。
e.限定的減縮を目的とする補正がされた発明が第36条第6項の要件を満たしていない場合であって、その記載不備が軽微であり、簡単な補正で記載不備を是正することにより、特許を受けることができると認められるときに、補正を受け入れた上で通知する拒絶理由通知は、「最後の拒絶理由通知」とすることができる。(第I部 第2章 第3節 拒絶理由通知 3.2.1(2) )

ということで、考え過ぎるとどんどん解らなくなるので、あっさり考えて問題を解ければ十分だと思います。

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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