質問があったのでお答えします。
3条の2と、3条1項及び9条の物品の類否判断の仕方は違うのでしょうか。
(そもそも、3条の2では物品の類否判断はしないのでしょうか)
というのも、過去問をまとめると、
・先願が全体意匠(鍋ぶた)、後願が部分意匠(鍋ぶたのつまみ部分)
→物品非類似のため3条1項と9条には該当しないが、3条の2には該当する
・先願が全体意匠(自動車)、後願が部分意匠(自動車のおもちゃのバンパー部分)
→物品非類似のため3条1項と9条には該当しない、3条の2にも該当しない
となります。
つまり、3条の2の物品の類否については、3条1項と9条とは別の考え方をすべきなのでしょうか。
意匠の類否は受験生に取って多く頭を悩ますところです。
まず、「形状」と「物品」とで分けて考えます。
形状については、実務上は重要ですが、試験としては殆ど問題とならないです。
形状は単に(絵として)似ているかどうかを考えれば十分です。
「物品」については、まずは必ず「出願している意匠」を中心に考えてください。
類否判断で混乱するのは「出願している意匠」(後願)と、「引用となる意匠」(先願)とを同時に考えてしまうからです。主人公はあくまで「出願している意匠」です。
出願している意匠の物品は明確です。
これは「願書」に記載しています。
この願書に記載している物品を「願書の物品」と自分は講義では言っています。
次に、意匠登録を受けようとする範囲の物品があります。
例えば、部分意匠であれば、実線で表すところです。
この意匠登録を受けようとする範囲の物品を「権利範囲の物品」と自分は講義で言っています。
出願意匠が全体意匠ですと、「願書の物品」と「権利範囲の物品」は一致します。
出願意匠が部分意匠ですと、「願書の物品」と「権利範囲の物品」はずれます。
つぎに、適用条文が3条と9条とについては、この物品をどこから認定するかです。
願書の物品 | 権利範囲の物品 | |
---|---|---|
3条1項(公知意匠) | 自由 | 自由 |
9条(登録意匠) | 願書に記載 | 図面から特定 |
公知意匠の場合、どこを認定してもOKです。
このとき、最初にいったことを思い出して下さい。
ここで主人公は「出願している意匠」(後願)です。
「出願している意匠」の「願書の物品」「権利範囲の物品」が、公知意匠の中で認定できれば負けです。
それに対して、9条は権利範囲なので、権利がぶつかる必要があります。
なので、願書に記載されている範囲がぶつからなければ、非類似になります。
また、図面において「実線」等の部分が違えば権利範囲の物品が異なり非類似になります。
さて、ここで3条の2が入るとどうなるかというと、
3条の2は簡単に言うと「公知意匠を先取り」している規定です。
したがって、物品の認定は3条1項と同じです。
「もしも公知意匠だとしたら!」って考えて物品を認定すればいいだけです。
「先願が鍋の鍋ぶた部分(部分意匠)、後願が鍋ぶたの摘み(全体意匠)」場合はどうなっちゃいますか!
先願は願書には鍋の鍋蓋と、鍋全体が開示されているとします。
まず、「出願意匠」は、「願書の物品」は「鍋蓋の摘まみ」、「権利範囲の物品」も「鍋蓋のつまみ」です。
まず9条の判断基準は、先願の意匠は「願書の物品」が「鍋」、「権利範囲の物品」は「鍋蓋」になります。
そうすると、いずれも異なりますので、非類似です。
次に3条1項を考えます。
先願が登録され、登録公報が発行されると公知意匠になります。
公知意匠になれば、物品の認定は「自由」です。
「出願意匠」の意匠が入っていれば、物品を認定できます。
鍋が開示されている以上、「鍋蓋のつまみ」はあるはずです。
したがって、出願意匠の「願書の物品」「権利範囲の物品」に相当する部分が認定できます。
あとは、形状が同一又は類似であれば、両意匠は同一又は類似です。
そして、この先願意匠が「登録公報発行前」に判断するのが3条の2です。
なので、判断手法は3条の2になっても、3条1項と同じと考えてOKです。
質問者は、3条1項と9条とが違いイメージのようでしたが、
3条1項と3条の2とが近いと思うと良いと思います。
ちなみに、公知意匠と、出願中の意匠ではこのようにほぼ同じなのですが、
違うのは公知意匠は3条2項の適用もありますが、出願中の意匠を根拠に適用されることはありません。