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不使用の抗弁が認められる範囲

今年の論文の商標法の本試験で、少し質問があったのでお答えします。

不使用の抗弁というのは、いちおう特許庁の定義がありまして、「異議申立て、無効審判及び侵害訴訟等において、申立てや訴えを受けた側が要求した場合、当該登録商標が一定期間使用されていることを証明しなければ請求が棄却される制度」となっています。(平成18年2月に発行された「商標制度の在り方について」のP.28を参照)

少し言い換えると、侵害訴訟等において、侵害者側から、商標権者の商標が不使用であることを理由に「その商標は不使用取消審判で取り消されるべき商標であるから、そんなものでは権利行使が認められない」という主張が認められることをいいます。

いくつか有名な事件があるのですが、東京地判H31.2.22「moto」事件を例に説明します。

この事件は、甲の腕時計に係る登録商標イに類似する商標を付した腕時計(スマートウォッチ)を、乙が運営する店舗で販売していたために差止請求及び損害賠償請求を受けたものです。

ここで、乙は、甲が腕時計について登録商標イを使用していないとして、不使用取消審判を請求しています。

商標は類似しているため非類似の主張は認められませんでした。
争点は甲が登録商標イを腕時計に使用しているか?になりました。
裁判所は、不使用取消審判の結論が出ていない(商標権が消滅していない)のですが、結論を出します。

「要証期間内において,原告商標が腕時計について使用されたとは認められず,原告商標の指定商品中「腕時計」は,不使用取消審判により取り消されるべきものであるということができ,前記のとおり,第二次不使用取消審判は既に請求されている状況にある。なお,原告は,被告商品は,腕時計を除く「時計」とも同一又は類似するから,差止請求が認められることに変わりはないと主張するが,審判により取り消された後の「時計(腕時計を除く。)」との指定商品との関係では,被告商品は類似しないので,この点についての原告主張は理由がない。」
したがって,原告により差止請求は,権利の濫用として許されないというべきである

これにより、権利行使は認められませんでした。

さて、この判決は続きがあります。
冒頭に書きましたように、本件は損害賠償請求についても併せて請求されています。
損害賠償請求について、裁判所は不使用の抗弁を認めませんでした。

もっとも,商標法54条2項により原告商標権の指定商品中「腕時計」が消滅する効果が発生するのは,平成29年6月23日(審判請求登録日)であるところ,原告が損害賠償を求めている期間は,平成28年7月から平成29年2月までであるので,損害賠償請求との関係では,権利濫用の抗弁は失当である

したがって、損賠賠償請求については、必ずしも不使用の抗弁が有効とは限りません。

今年の本試験の最後の問題で有効でない措置を書かせる問題がありました。
簡単な書き方としては、問題文の日時から考えると、3年経過していないと書くのが多数派だと思います。
ただ、上述したように54条2項との関係を記載したとしても、大きく外しているわけではないと思います。
特に地裁レベルの判例ですし、必ずしも認められるかというと、何とも言えない状況です。

今年の問題は、確かに実務的な観点から見ると考えられる問題です。

悪意ある商標の取扱いって、去年の自分のLゼミでは取り上げました。
商標法で悪意ある出願に対して取り得る措置として、4条1項7号、4条1項19号、3条1項柱書の類型があることについて、割とガッツリ説明しました(特許庁のスライドまで使って説明しています)。

ただ、それは「実務的にはこのような対応をしている」という説明をしただけでしたので、多分ゼミ生としても「ふーん」って感じで流している人が多かったのではないかと思います。
自分もそこまで「覚えるんだよ!」とは言っていません。
(ただ、4条1項7号は書いてね!はいつも言っています)

商標法はここ数年と出題傾向がまた変わったと思います。
受験生レベルからすると、今年の問題はかなり解きにくいと思います。

なので、「失敗した!」と全員思っている位なので、商標法で落ち込むことはありません。

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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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