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差戻審決について

目次

差戻し審決

よく質問を頂くものの1つに「差戻し審決」があります。
勉強が一通り済むと、混乱しがちな場所です。

178条の審決等取消訴訟では、裁判所は「特許判決」などはできません。
なので、必ず審決を取り消し、裁判所に戻ってきます。

しかし、審判の場面は、審判官が特許審決をすることができます。
すなわち、わざわざ審査段階に戻す必要はありません。
したがって、「差戻し審決」はかなり例外的なものです。
多分、見たことがない人が大半だと思います。

では、差戻し審決になる場面はどんな場面でしょうか?
これは審判便覧の61-07に記載があります。

(2) 原査定の取消しと審査への差戻し
ア 民事訴訟法では、必要的差戻しと任意的差戻しとに分けて規定しているが(民訴§307、§308)、特許法などにおいては、差戻しはすべて審判官の自由裁量にまかされている(特§160、意§52(特§160①、②のみ準用)、商§56①、§68④)。
イ 差戻しの範囲
拒絶査定不服審判の審理において原査定の拒絶理由によっては拒絶をすべきものでないと判断したとき、審判では拒絶理由通知等の手続が準用されているので、その際、直ちに原査定を取り消して審査へ差し戻すことは審判で行うことができる判断及び手続を審査で行うことになり、そのようなことは行政効率上好ましくないから、この場合は審判で更に審理を進めるべきである。
しかし、次の場合には自判することが妥当でないか、又はできないから、次の場合には原査定を取り消して審査へ差し戻すべきと解される。
(ア) 自判をすると審査・審判という二つの審級をおいている実質的意義が失われるとき
○発明に対する実質的判断が審査でされておらず、又は単に形式的理由で拒絶されたとき
○引用例の表示に誤りがあり、正しい引用例が不明であるとき
(イ) 自判をすると違法になるとき
○意見を述べる機会を与えずに拒絶査定をしたとき

ものすごく例外の事例しかありません。
なので、短答試験ではやむを得ませんが、論文試験でガッツリ問われるということは想定しなくて大丈夫かと思います。

一応、差戻し審決の事例を挙げておきます。

差戻し審決の事例

事例1(特願2004-204875/不服2011-014608)

拒絶査定をした引用文献が、出願日より後に公開されていたという事例です。

4 当審の判断
平成22年5月21日付けの拒絶理由の理由A及び理由Bにおける対象は、本願出願当初の特許請求の範囲の請求項1、2、15-17に係る発明であり、請求項1、2、15-17に係る発明は、本願の優先権の主張の基礎とされた特願2004-38573号(以下「先の出願」という。)の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1、2、9-11に記載されたものであるから、その優先日は、先の出願の出願日である平成16年2月16日である。
一方、平成22年5月21日付けの拒絶理由に引用された特開2005-217816号公報(以下「引用文献1」という。)の出願公開は平成17年8月11日であり、前記優先日より後である。
したがって、平成22年7月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2、18-20に係る発明の優先日より後に頒布された刊行物である引用文献1を引用して特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとした原査定は違法なものである。

1年も後の公開日の出願を引例として拒絶査定をしてしまったものです。
なお、当該出願の出願日は、平成16年7月12日なので、優先日を考慮するまでもなく引例の方が後の公開です。

この案件は、不幸なことに、拒絶理由、拒絶査定、前置審査と全部同じ文献が拒絶理由の引用文献として指摘されています。
対応した側もまさか出願日より後の引用文献とは気がつかなかったようでうs。
最後の審決で審判官にしれっと指摘されてしまいます。
ちょっと対応した場合、気がつかなかったことにショックを受けそうな案件です。
(差戻し審決で無事特許査定になったようです)

事例2(特願2012-064403/不服2017-004390)

拒絶査定で指摘していた文献の番号が相違していたという事例です。

4.当審の判断
(1)原査定(3.(1))及び拒絶理由通知(3.(2))の記載によれば、原査定は、引用文献1を主引用文献とする進歩性欠如を拒絶の理由とするものであるところ、原査定と拒絶理由通知のいずれについても、引用文献1として「国際公開第2011/148321号」と記載されている。
そして、原査定には、「走行による風圧を利用した発電システムを備えた車両と、外部に供給する構成」及び「発電した電力を外部に送電する装置」が引用文献1に記載されている旨が示されており(3.(1))、他方、拒絶理由通知においては、引用文献1の参照箇所として「段落[0011]-[0043]及び図1-2等」が示され、さらに「発電車両からの電力の供給、それを利用した電力系統システムを制御する装置」が引用文献1に記載されている旨が示されている(3.(2))。
しかしながら、当審において、「国際公開第2011/148321号」を確認したところ、この文献は、タイトルを「MITRO SAW(当審訳:「固定具付きの鋸」)」とするものであって、「走行による風圧を利用した発電システムを備えた車両と、外部に供給する構成」、「発電した電力を外部に送電する装置」、「発電車両からの電力の供給、それを利用した電力系統システムを制御する装置」はもとより、送電に関係した技術的事項を記載したものでない。さらには、そもそも「国際公開第2011/148321号」には段落番号が付されておらず、「段落[0011]-[0043]」に対応する参照箇所がない。これらを踏まえれば、原査定及び拒絶理由通知に記載された「国際公開第2011/148321号」は、進歩性欠如の主引用文献として示されるべき文献ではなかったのであって、原査定及び拒絶理由通知の記載中の引用文献の表示に誤りがあることは、明らかである。
また、このような主引用文献の表示の誤りによって、出願人においては正しい主引用文献を特定することができなかったのであり、そのことによって、特許法第52条第1項が予定する査定不服審判の請求に際して拒絶の理由に対して具体的に反論する機会及び同法第50条本文が予定する拒絶理由通知に対する意見書提出期間において通知された拒絶の理由に対して具体的に反論する機会が失われ、その意味で反論の機会が実質的に与えられないまま拒絶査定がなされたものである。
さて、こちらは出願経過ではどうなっていたかをみると、どうやら個人の出願のようでして。
意見書による反論も、ちょっとすれ違いの感じの対応でした。
一貫して出願人は「特許になるべきものだ!」との主張だけなので、そのまま引用文献には一切触れられず、拒絶査定、審判まで進んだようです。
なお、差戻し審決の引用文献を見ると「国際公開第2011/148531号」が正しかったようです。
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この記事を書いた人

都内在住の弁理士。平成14年登録。
専門は特許(特にソフトウェア特許、画面UI、システム)。
LECで弁理士関係の講師。

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